パソコンの生産革命:PC-98BTOの事始め(第1章-7)ーハイブリッドBTOの導入
1997年10月からコマーシャル(企業)市場のデスクトップPCから開始したPC98BTOは、その後ノートPCへも対応し、市場・販売店に受け入れれるようにメニューに創意工夫を重ね、セル生産の洗練化を進め、企業チャンネル販売店へのBTO方式の信頼度を向上させ、BTOをコアにした本格SCMへと進化していきました。
コマーシャル(企業)市場のBTOの成功を踏まえ、残った大きな難関であるコンシューマー(個人)市場へもBTO方式の展開を1999年10月から開始しました。
コンシューマー(個人)市場は企業向け市場とは大きく異なります。
次のようなコンシューマー市場特有の障壁があり、当初はBTOの導入は壁にぶち当たりました。
コンシューマー(個人)市場の障壁
【障壁1】店頭量販店は「在庫ありきのビジネス」
・受注から納入まで最短3日が必要、「当週発注、当週納入」の商慣習。
ー大手量販店は週1回発注の場合やデイリー発注などさまざま。
ー「在庫ありき」のビジネスモデルで最短3日の即納を要求される。
⇒コマーシャル(企業)市場のBTOは注文から納入まで最短5日~6日ですので大手量販店の要求に応えられません。
【障壁2】店頭量販店は所要変動が激しく、平準化生産が困難
[曜日別受注変動の例](量販店別の受注曜日比率:%)
月曜 火曜 水曜 木曜 金曜
量販店A 2 2 8 59 29
量販店B 36 6 26 19 13
量販店C 16 44 13 11 16
量販店D 6 28 0 61 5
⇒上記のように曜日毎に受注量が大きく変動し、かつ、納入まで最短3日を実現しなければ量販店にBTOは受け入れてもらえません。
個人向けPC市場に「ハイブッドBTO」を導入
コンシューマー(個人)PC市場にマッチした本質的な仕組みに変えないと大きな改革効果は出せません。
そこでコンシューマーPC98-BTOとして2000年7月に導入したのが「ハイブッドBTO」でした。
「ハイブッドBTO」で取り入れた施策のエッセンス
ここでPC98-BTOプロジェクトの目的を振り返っておきます。
PC98-BTOプロジェクトの目的
1.サプライチェーンの鮮度ロス費用の大幅削減によるパソコン事業体質の強化
■流通在庫の半減(4W→2W)、在庫補てん費用の半減
■工場製品在庫のZero化(BTO化部分)
■市場変動への俊敏な対応力
2.販売店のBTOメリットの最大化(1.のためにはサプライチェーン全体の効率化が必須)
■在庫運用の効率化、棚卸回転率の大幅改善
■BTO方式による確定日付けで仕入可能
■「在庫ありきビジネス」からの脱却ができる。少ない在庫で販売機会アップ
前述のコンシューマー市場特有の障壁を打ち破る必要条件は主に次の2つでした。
1.当週発注、当週納入(最短3日の即納)が必須
当時のBTOの納入リードタイムの実力は最短5日~6日でしたら、必要条件を満たすためには、予め作っておいたパソコンを振り向けるしかありません。
つまり、計画生産のBTP(Build To Planning)方式を使うしかありません。しかし、BTP方式100%ではPC98-BTOプロジェクトの目的は達成できません。
以上から、編み出した方法は、
「当週発注、当週納入」の壁を乗り越えつつ「BTOメリット」をコンシューマ市場にも最大化するために、BTOとBTPを巧妙に組み合わせた仕組み(ハイブリッドBTO)を作る
ことでした。
コンシューマーPC市場特有の2つめの障壁は、
2.店頭量販店は所要変動が激しく、平準化生産が困難
ということでした。
この2つの壁を打破するために採った施策がハイブリッドBTOです。
所要変動化対策として生産サイドで採りいれたBTOとBTPのハイブリッド生産方式の代表例が次のとおりです。
要件は、販売店からの日々の変動する受注量を遅滞なく生産し最短3日で納入することです。
それを実現したハイブリッドBTO生産方式のポイントは次のとおりです。
・量販販売店の過去の季節別・月別・曜日別の受注データーベースから所要予測精度を高めた生産計画をWeekly/Monthlyで回していく。
①毎月の生産計画に月生産計画量の15%をスタートバッファとしてBTPで予め計画生産をしておく。そのスタートバッファを1W目、2W目~4W目の受注変動時の日々のBTO生産能力オーバー時のバッファ在庫として、オーバーした時は引き当てていく。
②Weeklyの生産計画の変動可能幅として、4Wルールを作り2W目は+5%増産、3W目は+15%増産~、など増産対応ができる部材や生産体制が取れる仕組みを作っておく。もちろん、減産の場合もあります。
③BTP(計画生産)で大量に作っておけば納入最短3日は容易いですが、それではBTO(注文生産)の鮮度ロス削減効果は出せません。
つまり、BTO生産量を最大限に増やす必要があります。
そこで、①、②、の状況を見ながら、2W目~4W目の生産量を最大50%までBTO生産できる体制が取れる仕組みとしました。
このようにしてコンシューマーPC市場特有の障壁を乗り越えBTO生産方式を拡大していきました。
併せてハイブリッドBTOを支える生産工場の改革も押し進めました。
主な施策は次のとおりです。
・BTO&BTPのMIXセルラインの増強と効率化
BTO化率75%超、組立能率1.7倍化
・かんばんコンセプトによる自律的にプル生産が流れる工場内改革、導線の見直し。
・JIT(ジャストインタイム)調達の拡大、共同調達物流ネットワークの確立
・海外の部材ベンダーと「パーツショップ化」の拡大、
小刻み発注と週内多頻度納入やデイリー納入率の拡大。
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