伝説のパソコン低価格機:98FELLOW物語(21)ー10万円を切った最安値第三世代98FELLOW

第三世代98FELLOW=10万円を切った最安値PC-9801

黒船コンパック」対抗の初代98FELLOWを超速開発し標準価格21.8万円で93年1月にリリース後、直ちに同じ年の11月に第2世代98FELLOW(PC-9801BX2)をマザーボードの海外生産などのコスト低減の努力をして17.8万円と値下げしました。

 

さらに、インパクトのある価格でDOS/V勢との競合を勝ち抜くために、新たに標準価格で遂に10万円を切る破格値9.8万(店頭実売価格では7万円強)の第3世代98FELLOW(PC-9801BX3)の計画が浮上しました。

第3世代98FELLOW、PC-9801BX3 

(第3世代98FELLOW(PC-9801BX3))


この第3世代機が「低価格宣言。98FELLOW」の謳い文句で95年1月に発売されました。

 

これが結果的に、PC98シリーズの中で、標準価格が10万円を切ったモデルはこれが最初(で最後)であり、また、数多あるPC-9801-XXシリーズの歴史の中で「9801」型番を付した、「DOSマシンの最後の機種」となりました。

つまり、一時代を画したPC-9801型番シリーズの「トリ」を務めた98FELLOWが皮肉にもPC98シリーズ中の最安値のパソコンとなりました。

 

第3世代98FELLOWの開発の顛末の前に、93年~95年の主な出来事とパソコン関連のトピックスを参考にピックアップしておきます。

Column

93年~95年の主な出来事とパソコン関連のトピックス
世の中の出来事 
パソコン関連の出来事
93年
皇太子御成婚
Jリーグ誕生
バルセロナオリンピック
93年
5月:日本語版Windows3.1発売
2月:一太郎Ver5 for Windows発売
94年
松本サリン事件
中華航空機墜落
関西国際空港開港

94年
1月:日本語版WindowsNT3.1発売
2月:Windows Ver. 3.11リリース
10月:WWWコンソシアム設立
12月:Windows NT3.5 日本語版出荷

95年
阪神淡路大震災
地下鉄サリン事件
野茂メジャー初挑戦
円高1ドル79.75円
95年
1月:コンパックが米国でシェア1位(94年)
4月:ヤフー、米国で設立
11月:日本語版Windwos95発売、
    Office95も同時発売

 

上掲のように、93年5月のWindows3.1の発売から1年を経過して、94年後半~95年前半は、Windowsの使い勝手の改善やWindows対応のソフト(ワープロ、表計算、ネットワーク接続など)の充実により、
Windowsが仕事に使える実用的なものとして認知され、それまでの主力であった「DOSパソコン」から「Windowsパソコン」への大きな流れが加速してきた時代でした。

Ref:DOSパソコンとは?
簡単には、DOSは「ディスク・オペレーティング・システム」の略で、Windowsの前世代のOSです。DOSでは、パソコンに作業をさせるために、キーボードから命令文(コマンド)を入力しなくてはなりません。

 

第三世代98FELLOWの低価格設計

 

最後のDOSパソコンとしてトリを務めた第3世代98FELLOWの開発コンセプトは、
・第一にエントリー価格9.8万円の値付けができる徹底した低価格設計、
・第二にDOSからWindowsへの流れが明瞭になって来ており、WINDOWSパソコンとしても十分に使用可能であること、
・第三に金科玉条の互換性・信頼性の維持、および、作りやすい設計 
----でした。

 

エントリー価格9.8万円のPC-9801BX3は、その前の第2世代のPC-9801BX2の標準価格が17.8万円でしたから、実に45%もの値下げとなる非常にハードルが高い価格設定でした。

 製品企画部門のこの目標価格提案に対して開発部隊から見ると、とても実現できそうにないことが判っていました。

一方で、「10万円を切った9万円台」ということでないと、宣伝文句的にも、他社競合上も市場インパクトが打ち出せないことも理解できました。

 

初代98FELLOWの「2ヶ月の超速開発」とは異なり、第三世代98FELLOWは「9.8万円の破壊価格の実現」を達成するべく、時間を掛けて施策を廻らしました。

 

この時の低価格設計のポイントとなった主な考え方を参考に紹介します。

コスト低減の主なポイント


①開発に限らず製品企画や生産・調達まで「総合的に考える」

 

②設計関連は「枯れた技術・部品」、「1ランクダウン」の設

 計・部品の採用

 

③徹底した「塵積も」 ――-です。当然ながら品質や互換性のレ

 ベルは落とさないのは大前提です。

 

 

1.製品企画関連

●モデルMIXでビジネス・プランを考える

第三世代98FELLOWのモデルは①エントリーのCPUが486SX/33Mの9801BX3と②1ランク上のCPU486DX2/66Mの9801BA3の2つのモデルがあります。

加えて、今回はWindowsへのアップグレードキット(Windows3.1インストールのHDDと増設メモリとグラフ・アクセラレータ・ボード付)をオプション定義する計画でしたが、
このオプションを魅力的な価格設定にして、かつ、3番目のモデルとして③Windowsのプリインストールモデルも設定する。

即ち、エントリーの9.8万円のBX3はいわゆるキャッチ・アイのインパクト価格にして利幅は取れないが、上位モデルへのアップグレード選択肢を増やし、
かつリーズナブルな価格設定にして、ファミリーのモデルMIXとしての価格・台数で利益計画をプランする。

この98FELLOWはベースモデルを基本にアップグレードメニューを色々と提供する形となってきて、製品企画や設計手法にオーダーメイド(BTO:注文生産)的な萌芽が見られます。)

 

2.生産・調達関連

●海外調達比率の拡大を検討する

既に、マザーボードの海外ODMから海外比率3割の調達を第2世代機で実現していました。 この比率を5割程度へ拡大すること。
また、国内調達オンリーで残っていた大物ユニットのPCケース(シャーシ板金とモールド)についても、マザーボードと同様に海外ODMから、3~4割の調達に踏み切る。

但し、以前の記事の「海外調達の損得勘定(2)」で述べたように、海外調達は国内稼働率維持や調達リードタイムが長く迅速性に欠ける問題、オーバーヘッド費用とのトレードオフなどの十分な検討をして、最終的な調達比率とサプライチェーンを決める必要があります。

●部品ベンダー間の競争原理を最大限に活かす

それ以前からやっていましたが、部品選定については資材部を中心に複数のベンダーからの見積もり合わせを徹底しました。 
これは、技術者にやらせては駄目で資材部にやって貰う事がベターです。

というのは、技術者は部品ベンダーについては視野が狭かったり、延長線上で手っ取り早く決定したがりますから、コスト重視の部品選定をとことんやる点で力不足の面があるからです。

また、海外部品ベンダーと国内部品ベンダーとの競争原理も活用することも大切です。
国内部品ベンダーは海外ベンダーに仕事を獲られるのを防ぐために価格を下げる努力をせざるを得ないからです。

●部品価格の交渉に留意する

次のようなことに留意することがポイントです。

①ライフ総量の調達ボリュームを示し、最低調達量をコミットする

②他のシリーズとの部品共通化を極力図る。

これはボリューム効果が増える からですが、それだけではなく部品評価の効率化や実績のある部品としてリスク軽減につながります。
内部ケーブルなどは機種毎に必要な長さが異なりますが、ベンダーは共通にすることでボリューム効果が増大します。

③マルチベンダーからの調達とする。

これは、量販製品では必須です。 ベンダー倒産や天変地異などによる部品入手リスクヘッジと競争原理の一鳥二石になります。(但し、調達ボリューム効果の方がかなり大きければ、ベンダーの信用度見合いで意図的に1社のみとする場合もあります。)

④コストの高い重要部品は重点交渉部品として、幹部が価格交渉を行うなどの組織的な取り組みを行う

⑤定期的な値引き交渉を調達の条件とする、つまり先々のコスト低減余地があること

⑥カスタム設計発注品については複数ベンダーから合い見積もりし、開発費やリードタイムを含めた総合的なコスト判定をすること

 

3.開発関連

●枯れた部品や技術を採用する

言い換えれば、最新の部品や技術はコストが高くつくということです。 技術者はその性格上、新しいものが好きです。 
得てして枯れた部品や技術でも製品要件は十分に満たせるのに、敢えて新しいものを使ってみたがる人種でもあります。

このようなポイントでも設計コンセプトの意識合わせ、デザインレビューをやることが効果があります。

特に、CPUやLSI、HDDなどキーコンは「最新のホヤホヤ」よりも、現在のものや1世代前のものが量産効果、習熟効果でコストが下がっており、かつ、枯れていてその製造品質も良く潜在技術問題のリスクも少ないのです。

●ランクダウンの設計を検討する

「ランクダウン」というと語弊があるかもしれませんが、ここでは「余剰・過剰設計を見直す」、「それまでの常識を見直す」という意味です。

例えば、第三世代98FELOWの場合は、以前に記したようにマザーボードの多層基板を8層から6層に低層化済みでした。
 
更に、6層→4層マザーボードにチャレンジしました。
当時、4層化すれば1500円程度安くなったと記憶しています。
しかしながら、4層基板は6層基板よりも内層の信号配線が使えないため設計的には難易度が逆に高いのです。

また、新PCケースの設計では「ネジレス化」の掛け声の下、ネジで締め付ける箇所を「レス」にはできませんでしたが大幅に削減をしました。

また、ケーブルも2本を1本の複合ケーブルに集約した場合のコスト比較、フロントマスクに取り付けるコネクタやスイッチ類をリアに配置しマザーボードに一体化する、拡張スロット用のコネクタ基板(ライザーカードと言う)の板取効率や低層化をきめ細かく再検討するなどを行いました。

梱包箱の梱包材見直しやマニュアルのページ数削減についても「塵積も」を行いました。

このように「ランクダウン」と「塵積も」を開発部門だけではなく、生産技術など関係部門が参加して組織的に深堀りすることが設計原価低減のポイントです。

 

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