伝説のパソコン:98FELLOW物語(12)ー内外価格差の誤解
【閑話休題】
内外価格差の誤解
当時、コンパック・ショックで良く言われたのは「日本のパソコン価格はコンパックの2倍も高い」というフレーズでした。PC98の開発に関わった者としては、「2倍」というのは誤解があったことをここで反論しておきたいと思います。(今更ですがーー)
(理由1)標準価格と実売価格の違い
今は日本では「オープン価格」(メーカーが標準価格を設定しないで各販売店で実売価格が見える)が当たり前となりましたが、当時は、国内では標準価格(LP:List Price)を設定し、新製品リリース通知やカタログにも書いておくのが一般的でした。
一方、北米では標準価格ではなく、「推定実売価格」(ESP:Estimated Street Price)でアナウンスするのが主流でした。
92年10月に発売されたコンパックの最安値モデルProLineaの表記されている価格は12万8千円、これは前記の店頭価格相当なのです。
一方、92年のPC98の最安値モデル(エントリーモデルとも言った)はPC-9801USで標準価格が24万8千円でした。
当時、標準価格×(70~75%)=店頭実売価格 だったと思います。 従って、17万4千円~18万6千円が9801USの実売価格ですから、ProLineaとの実売価格差は2倍もあるわけではなく、1.36倍~1.45倍程度の価格差というのが実態でした。この辺りの実情はマスコミでも誤解が多かったと思います。
それにしても、価格差は非常に大きく、価格の点だけで選択されるとインパクトが大きいと我々は危機感を抱きました。
(理由2)エントリーモデル以外はそれほど安くはなかった。
とかく破格値の12万8千円ばかりに耳目があつまりましたが、コンパックは戦略的にProLinea386SX/25Mを見せ玉として安く値付けし、ミドルレンジ~ハイエンド機やノートPCも同時に投入しましたが、上位モデルやノートPCはそれほど安くはなかったのです。
ちなみに、コンパックの上位モデルの486SX/66MHzモデルは43万8千円で、92年当時のPC98シリーズの486機はPC-9801FA(486SX/16M)があり、標準価格が45万8千円で、CPUスピードは大きく負けていますが、先ほどの実売価格=標準価格×約70%のことから、実売の絶対価格は9801FAの方がよほど安くコンパックの上位モデルやノートPCは脅威ではなかったのです。
ローエンド(エントリー)~ミドル~ハイのモデル別の市場セグメントで見れば、ローエンドのセグメント(のみ)が脅威という状況でした。
しかしながら、黒船コンパックが、Windows3.1のGUI(グラフィック操作インターフェース)の良さと相俟って、その後のDELLやGatewayなど外資系DOS/Vメーカーの日本参入、富士通やエプソンなどの国内勢のDOS/Vシフトを加速し、日本のパソコン市場にPC/AT互換への流れの扉を開き、コンパックショックが価格競争が始まる呼び水となった大きな転換点だったことは間違いありません。
(参考)DOS/Vとは?
IBM社が発売したPC/AT互換機用のOSであるPC-DOS/Vのこと。1990年に日本IBMによって開発された。
日本語フォントを表示する専用のハードウェアを利用せずに、ソフトウェア的に日本語を扱う機能を持つ。そのため、米国で一般的に使用されていたPC/AT互換機でも日本語を扱うことが可能になり、DOS/Vを組み込んだPC/AT互換機(DOS/Vパソコン)が広く利用されるようになった。なお、DOS/Vという名称は、画面をVGAで表示することに由来する。