伝説のパソコン:98FELLOW物語(13)ーマトリックス・コンカレント開発組織

マトリックス・コンカレント開発組織

PC98シリーズは93年以降にDOS/Vパソコンとの競合激化、Windowsの浸透、低価格化の進行、ノートPCの立ち上がり、機種の多様化、などによりパソコン需要が大きく拡大し、それを受けて新製品も年間20機種以上をリリースする「多機種フルラインアップ時代」に突入しました。

先にも書きましたが、当時の主力開発・生産拠点の1つであったNEC新潟のPC開発部(第1技術部)でも年間5~6機種の新製品を矢継ぎ早やに開発してリリースする必要に迫られました。

限られた開発人員で新製品をコンカレントに開発し、かつ納期を厳守できる効率的な開発体制を構築する必要があります。

98FELLOWの超速開発が始まる92年当時の開発人員は約90人でパソコン開発に必要な自己完結できる開発ファンクションをほぼ自前で持っていました。

新製品の開発リードタイムは新世代機など新規性が高いモデルは10ヶ月前後、後継機など強化モデルは半年前後のリードタイムが掛かっていました。 従って、年間5機種の新製品をリリースするためには、同時に3、4機種の開発をコンカレントに走らせる能力が必要です。 加えて、出荷済みの製品についても問い合わせ対応、障害調査や原価低減のVE設計などのメンテナンス業務も必要でした。

そこで、採った開発組織は図3のマトリックス・コンカレント開発体制です。

 

マトリクス・コンカレント開発体制

 

 

それ以前は1つの開発グループが1つの新製品をクローズな体制で開発していましたが、これでは、「新製品の同時開発数=必要な開発グループ数」となり効率が悪くフレキシビリティーに欠ける面があります。

縦軸が各々の開発機能チーム、幾つかの開発機能チームを束ねた複数の開発グループに1人の技術課長が責任を持つ形となっています。 横軸が、現在は一般的な言い方となったPM(Product Manager)に相当する「装置まとめ」チームで、新製品の数見合いでダイナミックに編成されます。

1つのPMチームが複数の新製品を同時担当することもあります。 新製品パソコン毎にマトリックスの横串を通す形でプロジェクトが編成されます。 装置まとめチームが進捗管理、生産・資材部隊との窓口、原価管理、障害対応の対外窓口などを一括して担当し、縦軸の各機能チームにディスパッチし、まとめる役割を果たします。

このマトリックス・コンカレント開発組織のメリットとデメリットは次のように整理されると思います。

<メリット>
1.フレキシビリティーがあり新製品開発のコンカレント数を多くできる、また特急開発プロジェクト編成などのダイナミックな組織化に対応しやすい。

2.全員が情報が共有しやすい、他のチーム、グループが何をやっているか見えやすい、従って技術ノウハウが開発組織内で流通しやすい。

3.部長やPMが横串を通して日程管理や問題点把握など全体が見えやすい。

4.上記が巧く機能すれば、開発リードタイムの短縮や開発費の効率化につながる

 

<デメリット>
1.各チームのリーダーは複数の新製品を掛け持ちすることとなり、スキルのある技術者への依存度がより高くなり、一部の人材に負担が偏重しやすい。

2.装置まとめの人材(PM)のリーダーシップ力、センスの良さがないと巧く機能しない。

3.開発部の中で専門機能化が細分化し、固定化してしまう弊害が起きる恐れがある。すなわち、PC開発の全機能が分かる技術者が育ちにくい。

 

98FELLOWはこのようなマトリックス・コンカレント体制の中で緊急特別プロジェクトとして、技術力のあるキーメンバーを優先的にピックアップし編成することで、
他の新製品開発もコンカレント実行しつつ、目標の2ヶ月の開発リードタイムを達成することができました。 このマトリックスコンカレント体制の他に、何といっても開発メンバー全員の黒船パソコン迎撃への熱意が成功に導いた要因でした。

 

 

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