パソコンの生産革命:PC-98BTOの事始め(第1章-3)ー複雑な流通チャネルと鮮度ロス
NECパソコンの多様な販売チャネル
1990年代後半のNECパソコンの市場への販売・流通ルートは下図のように多様で複雑でした。
まず大きく分けてコマーシャル(企業)市場とコンシューマー(個人)市場に分けられます。
(図1:NECパソコンの多様な販売チャネル)
企業向けはNECのシステム事業グループ経由で官公庁や金融や建設など業種別大・中企業、小企業・SOHO(スモールオフィス)、学校などに納入されており、NEC直販(NECが直接に官公庁などに販売)ルートと大塚商会などの大・中の訪販系販売店ルートがあり、さらに地域営業グループ経由の小企業・SOHO(スモールオフィス)や学校ルートなどがあり、多様で複雑な流通ルートになっていました。
個人向けはNECパーソナルシステムがダイワボウなどの大・中の卸販売店や全国に点在する店頭系販売店を介してお客様に届けていました。当時は個人向けはNEC直販はなく販売店販売が中心でした。
「上流」がNEC群馬などのパソコン生産工場、「下流」が企業や個人の市場、その間をつなぐ「中流」が販売チャネルで多様で複雑な販売ルートが合計で約1万もありました。
それだけ多くの販売チャネルが各々に必要な在庫を抱えて商売をしており、全体では膨大な流通在庫を抱えていました。
NECにとって流通在庫を売り切るための費用(鮮度ロス)負担も多大で流通在庫をいかに圧縮するかが経営面で大きな課題でした。
パソコンの短いライフサイクルが鮮度ロスを増大
パソコンの市場特性から新商品の発表・出荷開始日までに、数万台規模の作り溜めをします。
パソコンのライフサイクルは5ヶ月から6ヶ月で、なおかつ、最初の3ヶ月でライフ総量の80%も占めています。
(図2:パソコンのライフサイクル を参照)
パソコンの商品特性から最初の3ヶ月でライフ総量の80%を占めます。当時の新商品投入は3~4回/年でしたが新商品投入するときに如何に現商品の上流~中流の在庫を絞り込んだ上で新商品へ移行するかが需給管理の大きな関心事でした。
新商品が発表されると現商品はいわゆる「型落ち品」扱いとなり、売り切るために値引き販売がされる場合が多く、値引き分の多くは「在庫補てん費」としてNECが負担する商慣習になっていました。
ですから新製品投入時には「型落ち品」は極力売り切り絞込みをしておきたいところです。
しかし、年3回~4回も何機種もの新製品を一斉に投入するのですから、そうそう簡単に「流通チャネルの在庫」の絞り込みはできません。
流通チャネルにおける「鮮度ロス」はこのような流通在庫に起因する在庫補てん費や販売奨励金などのことを指します。
年間の新製品の投入数が増えるにしたがい型落ち品・売れ残り在庫などの流通在庫数は増え、それに比例して「鮮度ロス」費用も膨らみますから膨大な流通在庫を処理する費用が経営を大きく圧迫します。
この流通チャネルに点在する「鮮度ロス」つまり「流通チャネルの在庫」を圧縮するための切り札として「BTO(注文生産方式)」をいかに多様で複雑な流通チャネルに合わせて導入していけるかが大きな課題でした。
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